(あのときのマリアンヌ様、本当にお可愛らしかったわ)
エリスは、思わずニヤけそうになる唇を押し留めながら、
(そうだわ。今日の星への願い事は、お二人の恋の成就にしようかしら)
などと考え始める。
エリスは一週間ほど前から『願い事』を何にするか考えていたのだが、今が幸せすぎて、他に望むものが思い当たらなかったからだ。
願い事の内容はどんなことでもいいと聞いているし、他人の幸福を願ったって、何の問題もないだろう。
エリスが願い事を決めたところで、劇は最高潮を迎え、太陽神ミトラスが人々に希望を授ける場面へと移る。
『人々よ! その願いを星へ託せ――永遠に輝く光のもと、我が汝らの祈りを聞き届けよう!』
演者の力強い声が広場に響き渡り、大きな歓声が沸き起こる。――終幕だ。
「どうだった? エリス」
「とても興味深かったです。また来年も観たいですわ」
「そうか。気に入ってもらえたなら何よりだ。来年も一緒に観よう」
「はい、殿下」
「……そろそろ日が暮れるな、移動するか」
その声に空を見上げると、青色だった空は、すっかり紅色に染まっていた。
メインイベントの時間だ。
隣に座っていたアレクシスが立ち上がり、優しい笑顔で、手を差し伸べてくれる。
「さあ、手を」
エリスはそんなアレクシスの微笑みに胸をときめかせながら、右手をそっと、アレクシスの手のひらに重ねた。



