(オリビア様とリアム様が、あちらで無事に過ごされていることがわかって本当に良かったわ。――でも、本当に驚いたのはシオンのことなのよね)
というのも、シオンはルクレール侯爵が売りに出した屋敷を、そのまま買い取ってしまったのだ。
それも、解雇されるはずだった使用人たちを、一人残らずそのままに。
それをアレクシスから知らされたエリスがシオンを問い詰めると、シオンはあっけらかんと笑ってこう言った。
「お金なら有り余るほどあるからね。有効活用しないと。それに、あの温室を取り壊しちゃうのはもったいだろう?」――と。
(あのときは本当に驚いたわ。結局、いくら払ったのかも教えてくれなくて……。せめて一言知らせてくれたら良かったのに)
半数以上の使用人が辞めた状態だったとはいえ、毎月の給金を払い続けることを考えると、エリスは弟の懐具合が心配になったのだが、その後セドリックが「十年は問題ないでしょう」と教えてくれたことで、ひとまず安堵したエリスである。
――そして最後に、進展があったことがもう一つ。
エリスは、先週のマリアンヌとのお茶の時間を思い出す。
エリスはその日、マリアンヌが首につけていた真珠のネックレスを見て、すぐにピンときた。
ネックレスの意匠が、アレクシスから受け取ったロレーヌ土産の真珠のアクセサリーと同じものだったからだ。
(これって、絶対そうよね……?)
だからエリスは、「もしかして、そのネックレスは」と尋ねてみた。
するとマリアンヌは頬を赤く染めながら、「実は、とある方からいただいたの。ほら、この前の刺繍のハンカチ……そのお礼で」と、嬉しそうに笑ったのだ。
その後マリアンヌは、セドリックの名前こそ出さなかったけれど、相手のいいところや、どんなところに惹かれているかなどを、恥ずかしそうに語ってくれた。



