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その後エリスは、最後尾の席にアレクシスと並んで座り、演劇を鑑賞した。
冬至の夜に訪れた闇の試練に立ち向かう人々の強い生き様と、太陽神ミトラスの誕生を、華やかな衣装をまとった演者たちが優雅な動きと力強い台詞で表現する――その様子に魅入られながら、このひと月のことを思い出す。
アレクシスが宮で仕事をするようになってから、丁度ひと月。
決闘があった日から数えると、ひと月半。
エリスは、まるでリアムとの一件など最初からなかったかのような、平穏で穏やかな日々を過ごしていた。
朝は相変わらずなかなか起きられない日が続いているが、朝食も夕食も、もちろんティータイムも、アレクシスと共に過ごすことができている。
外出も許可されて、マリアンヌとお茶をしたり、図書館へ行くこともできるようになった。
それもこれも、クロヴィスがルクレール侯爵を議長の座から追いやってくれたお陰だろう。
ひと月前、議長の座を退く意思を示したルクレール侯爵は、翌日には帝都の屋敷を売り払う算段を整え、あっと言う間に領地へと帰還。
それに伴い、エリスの不貞の噂はルクレール侯爵の議長辞任のニュースへと、一気に塗り替えられた。
しかもその辞任は、クロヴィスではなく『アレクシスの怒りを買った』からだという情報が流れたために、貴族たちはエリスについてだけでなく、リアムの死についてさえも一切触れなくなった。
アレクシスの怒りを買えば、命すら危ういと判断したのだ。
その後すぐに、第二皇子派の伯爵が新議長に着任。まだ三十代の若い男らしいが、セドリック曰く、相当のやり手だと言う。
また、つい先日、ランデル王国にいるオリビアからも手紙が届いた。
オリビアはジークフリートの計らいで、医療院で看護助手として働き始めたという。いずれは資格を取り、看護師を目指すそうだ。
一方リアムの方は、ジークフリートにその聡明さを買われ、行政官にならないかと誘われているとのこと。
本人も、剣よりはペンを握る方が性に合っている自覚があるらしく、おそらくそちらの道に進むだろうとのことだった。



