【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「わたくしは、すぐに参加の返事を出しました。これで少しは、先のことを考えなくても済む。そう思ったからです。つまり今回の件は、殿下だけではなく、わたくしの未熟さが招いた結果。ですから決して、殿下おひとりが(せき)を負う必要はないのです」
「……っ」

 アレクシスはエリスの告白を、目を見開いて聞いていた。
 まったく予想していなかった内容に動揺を隠すこともできず――茫然と問いかける。

「今も、そう思っているのか……? 俺が、君との子どもを喜ばないと」

 アレクシスは正直、ショックを禁じえなかった。
 エリスにそんな風に思われていたことも。エリスをそれほど不安にさせていたことも。
 リアムとの一件のことなどすべて頭から吹き飛んでしまうほどの、強い衝撃を受けていた。

 だが、エリスは首を振る。
 アレクシスを真っすぐに見つめ、毅然と答える。

「いいえ、思っておりません。殿下は確かに喜んでくださいました。わたくしを大切に扱ってくださいました。ですからもう、不安はありません」
「なら、どうしてこの話を俺にした? 黙っていれば……」
「黙っていたら、殿下はいつまでもご自分を責められるのでしょう? それは、わたくしの望むところではありませんから」
「……っ」

 この一週間、エリスは沢山考えた。
 自分を避けるアレクシスを、どうしたら振り向かせられるだろうかと。
 どうすれば、前の様に接してもらえるだろうかと。

 その結論が、これだった。

 こうしたやり方はどうかと思うけれど、シオンに言われずとも、エリスは最初から、そうしようと決めていた。

 エリスは、アレクシスの胸板にそっと手を這わせ、誘うような声で問いかける。

「殿下は、このような未熟なわたくしでも、変わらず愛してくださいますか?」
「――!」