【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「ありがとうございます、殿下。そのような重要なことをお話しくださって。――では、わたくしからも一つ、よろしいですか? わたくしも殿下に、どうしても謝らなければならないことがあるのです」

 そう言うと、アレクシスは驚いたように眉を寄せたが、すぐに頷いてくれる。
 そんなアレクシスに背中を押され、エリスは、シオンにすら言えなかった気持ちを、口にした。

「今回の件、殿下は何度も、全ては自分のせいだと仰いました。わたくしは何も悪くないと。……でも違うのです。リアム様に隙を与えてしまったのは、どう考えても、わたくし自身なのです。なぜなら、わたくしは――」
「…………」
「わたくしは、この子(・・・)を身ごもったことを、心から喜ぶことができなかったのですから」
「――!」


 それは妊娠が判明したその日から、エリスがずっと、心に秘めていた感情だった。


(わたしが、母親に……?)

 妊娠を告げられたその瞬間、エリスの中に真っ先に芽生えた感情は、喜びではなく恐怖だった。

 皇子妃として、いつかは子どもを産むことになるだろう――頭ではそう理解していても、実際はもっと先のことだと思っていたからだ。

 母親になる覚悟も、準備も、何もできていない。
 そもそも、アレクシスは以前、自分に子どもは必要ないと言っていた。それなのに――。


 エリスは怖くてたまらなくなった。

 子どもは不要だと言った、あの言葉がアレクシスの本音だったら。嫌な顔をされたら。

 そのせいで、アレクシスの愛情が自分から遠ざかってしまったら。
 父親から愛されなかった自分やシオンと同じ思いを、お腹の子どもにもさせてしまったら。

 アレクシスを信じたいのに、どうしても信じきることができない。

 シオンや使用人たちから「おめでとう」と言葉を掛けられる度、息が止まりそうになる。
「ありがとう」と答える笑顔の裏で、叫び出したくなる気持ちを必死に抑えていた。


 ――エリスはどうにかして気を紛らわそうとした。
 子どものことを少しでも考えないように。嫌な想像をかき消すように。

 そんなときだ。
 リアムから、お茶会の招待状が届いたのは。