【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「姉さん……! どこにいるの……!?」

 シオンは、昼間のエリスの青ざめた顔を思い出し、強い後悔に苛まれた。

『姉さんと一緒にいられないなら、生きる意味なんてない……!』――そう叫んで手すりに足をかけた自分の腰に縋り付き、必死に止めてくれたエリス。

 あのときエリスは、いったいどんな気持ちでいたのだろう。

 実際の気持ちは、本人に聞いてみなければわからない。
 けれど少なくとも、いい気持ちはしなかったはずだ。

 それどころか、エリスは自身を責めたかもしれない。

 
 自分の配慮が足りなかったから、(シオン)を追い詰めてしまったのでは。
 もっと大切にしてあげていれば、(シオン)がこんな行動に出ることはなかったのに――そう思った可能性だってある。


(姉さんに、謝らないと……!)

『心配をかけてごめんなさい』と、伝えなければ。
 そして、一刻も早く姉を安心させてあげなければ。


 すると、そう思った瞬間だった。

 暗がりの向こうに見覚えのある二人分の人影(シルエット)を見つけ、シオンは声を張り上げる。

「姉さん……!」――と。

 けれど、彼はすぐに後悔した。

 なぜなら、間の悪いことに、二人はたった今口づけを交わそうとしていた、その瞬間だったのだから。