すると、その時だ。
アレクシスは目を覚ましたのか、大きく身じろぎし、深く息を吐く。そして、小さく呟いた。
「……エリス?」
その声には戸惑いが滲んでいた。
アレクシスは、どうしてエリスが自分の腕の中にいるのか分からないようだった。
けれどすぐに状況を理解したのか、エリスの腰に回していた放すと、困ったように微笑む。
「すまない。君を離しがたくて、そのまま眠ってしまった。どこか痛むところはないか?」
「――っ」
その声はあまりにも甘く、まるで夢の続きを語っているかのようだった。
(やっぱり、今日の殿下は様子が変よ)
先ほど、庭園で自分を心配したときもそうだった。
今日のアレクシスはいつもと違い、どこか物憂げな雰囲気を纏っている。
きっとこれは、宮廷で余程のことがあったのだろう。
そう確信したエリスは、顔を赤く染めながら、ふるふると首を振った。
「いいえ、どこも……。わたくしの方こそ、申し訳ございません。大事な話があったのでしょう? それなのに眠ってしまうなんて……」
「話? 俺はそんなことを言ったか?」
「いえ。でも、お忙しい殿下が早く帰ってくるなんて、そうとしか……」
暖炉の側のソファの上で、エリスはアレクシスに身体を預けたまま、冷静な声で問いかける。
するとアレクシスは、合点がいった、という顔をした。
「ああ、それはな……」
アレクシスは、エリスの腰に再び腕を回し、口角を上げる。
「明日からしばらくの間、宮で仕事をしようと思ってな。本棟への人の出入りが増えるから、君に伝えておかなければと思ったんだ」
「……え? こちらで、お仕事を?」
「ああ。そうすれば、好きな時に君に会えるだろう? 朝食も夕食も、午後のティータイムも、共に過ごせる」
「――!」
刹那、思いもしなかった言葉に、エリスは再び息を呑む。



