【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 すると、その時だ。
 アレクシスは目を覚ましたのか、大きく身じろぎし、深く息を吐く。そして、小さく呟いた。

「……エリス?」

 その声には戸惑いが滲んでいた。

 アレクシスは、どうしてエリスが自分の腕の中にいるのか分からないようだった。
 けれどすぐに状況を理解したのか、エリスの腰に回していた放すと、困ったように微笑む。

「すまない。君を離しがたくて、そのまま眠ってしまった。どこか痛むところはないか?」
「――っ」

 その声はあまりにも甘く、まるで夢の続きを語っているかのようだった。

(やっぱり、今日の殿下は様子が変よ)

 先ほど、庭園で自分を心配したときもそうだった。
 今日のアレクシスはいつもと違い、どこか物憂げな雰囲気を纏っている。

 きっとこれは、宮廷で余程のことがあったのだろう。
 そう確信したエリスは、顔を赤く染めながら、ふるふると首を振った。

「いいえ、どこも……。わたくしの方こそ、申し訳ございません。大事な話があったのでしょう? それなのに眠ってしまうなんて……」
「話? 俺はそんなことを言ったか?」
「いえ。でも、お忙しい殿下が早く帰ってくるなんて、そうとしか……」

 暖炉の側のソファの上で、エリスはアレクシスに身体を預けたまま、冷静な声で問いかける。
 するとアレクシスは、合点がいった、という顔をした。

「ああ、それはな……」

 アレクシスは、エリスの腰に再び腕を回し、口角を上げる。

「明日からしばらくの間、(ここ)で仕事をしようと思ってな。本棟への人の出入りが増えるから、君に伝えておかなければと思ったんだ」
「……え? こちらで、お仕事を?」
「ああ。そうすれば、好きな時に君に会えるだろう? 朝食も夕食も、午後のティータイムも、共に過ごせる」
「――!」

 刹那、思いもしなかった言葉に、エリスは再び息を呑む。