するとエリスは、そんなシオンの心理を汲み取ったのか、「あなたが謝ることは何もないわ」と小さく首を振る。
「殿下から話を聞いたときは本当に驚いたけど、責める気持ちは少しもなかったの。ただ、あなたがそうしなければならなかった理由がわからなくて、もしかしたらと思った後は、自分の鈍感さに呆れただけ」
「――! 鈍感だなんて、そんなこと……!」
「いいのよ。それにわたし、あなたがずっと次席を取っていたと聞いて、誇らしかったんだから。わたしの弟は、とても優秀なんだって」
「……姉さん」
「シオン、わたしはね、きっとこれからも沢山のことを見逃すと思うの。わたしはあなたほど賢くないし、お父さまの考えにすら気付かなかった。でも、これだけは言える。わたしはいつも、あなたの幸せを願っているって。どうか、それを忘れないで」
「……っ」
エリスの純粋な眼差しに当てられて、シオンの中に強い衝動が沸き上がる。
今すぐエリスを抱き締めてしまいたい、と。
けれどシオンは、その気持ちを必死に心の奥にしまい込んだ。
自分はもう、エリスを諦めると決めたのだから。
「……うん。絶対……忘れない」
そう答えると、エリスは花のような笑顔を見せる。
と同時に、「エリス」と、時間切れの合図の声がして――。



