【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 するとエリスは、そんなシオンの心理を汲み取ったのか、「あなたが謝ることは何もないわ」と小さく首を振る。

「殿下から話を聞いたときは本当に驚いたけど、責める気持ちは少しもなかったの。ただ、あなたがそうしなければならなかった理由がわからなくて、もしかしたらと思った後は、自分の鈍感さに呆れただけ」
「――! 鈍感だなんて、そんなこと……!」
「いいのよ。それにわたし、あなたがずっと次席を取っていたと聞いて、誇らしかったんだから。わたしの弟は、とても優秀なんだって」
「……姉さん」
「シオン、わたしはね、きっとこれからも沢山のことを見逃すと思うの。わたしはあなたほど賢くないし、お父さまの考えにすら気付かなかった。でも、これだけは言える。わたしはいつも、あなたの幸せを願っているって。どうか、それを忘れないで」
「……っ」

 エリスの純粋な眼差しに当てられて、シオンの中に強い衝動が沸き上がる。
 今すぐエリスを抱き締めてしまいたい、と。

 けれどシオンは、その気持ちを必死に心の奥にしまい込んだ。
 自分はもう、エリスを諦めると決めたのだから。

「……うん。絶対……忘れない」

 そう答えると、エリスは花のような笑顔を見せる。

 と同時に、「エリス」と、時間切れの合図の声がして――。