――『ずっと側にいたらいい』
瞬間、再びシオンの目が見開く。
その内容が、一度は諦めかけた夢だったからだ。
シオンは幼少期から、エリスと共に生きたいと願っていた。その為だけに努力してきた。
成績表を偽造したのも、浮いたお金で投資をしたのも、元を辿れば、全てはエリスと共にある為だった。
けれどエリスは帝国に嫁ぎ、しかも、自分の存在はエリスの負担になってしまう――それを悟ったシオンは、エリスと一定の距離を保とうと決めたのだ。
それなのに、エリスは自分が側にいてもいいのだと言う。
「……ずっと側にいていいの? 本当に、僕の好きにしていいの?」
「勿論よ。あなたの人生だもの」
「――っ」
同情心ではない。弟に対する責任感でも庇護欲でもない。
自分を一人の人間として認め、選択を委ねるエリスの瞳に、どうしようもなく胸が熱くなる。
けれどそんな思いとは裏腹に、シオンは素直に頷くことができなかった。
なぜならシオンもまた、今回の一件で学んでいたからだ。
『ウィンザー公爵家の問題をこのまま放っておいたら、いずれ大変なことになる』と。
「…………」
(僕は姉さんの側にいたい。その気持ちは変わらない。だけど、実家の問題から目を背けるのは違う気がする)
とは言え、この場でそれを口にすれば、エリスにいらぬ心配をかけてしまうだろう。
シオンはエリスの瞳をじっと見つめ返し、どう返事をすべきか思案する。
――すると、そのときだった。
エリスの背後、宮の入り口の方角に、見覚えのある影が現れたのは。



