半年前、舞踏会の最中、中庭で四年ぶりにシオンと再会したとき、シオンは「愚かな父親を油断させておく必要があった」と確かに口にした。
つまり、成績表を誤魔化した元々の理由は、『無能な後継者でいる必要があった』からなのだろうと。
だが、父を油断させるだけなら投資までする必要はない。――となると、考えられる理由はただ一つ。
「もしかしてお父様は、あなたを家から追い出そうとしていたの? それを少しでも遅らせるために、成績表を偽造したの? それを防ぐために、お金が必要だったの?」
「…………」
「これはあくまで、わたしの想像でしかないわ。でも、リアム様の一件があって、もしかしたらって」
父は自分たちを憎んでいた。
分家から婿養子に入った父には、結婚前から慕っている女性がいた。それが継母だ。
シオンを追い出したい理由は十分にある。
「あなたを廃嫡して養子を取れば、ウィンザー公爵家は今度こそお父様のものになる。……だから、あなたは……」
公爵家を手に入れたい父にとって、優秀な後継者は邪魔な存在だ。
シオンはそれを知っていたから、無能な息子を演じていたのではないだろうか。
家門の存続のために私生児を引き取り、優秀な後継者に育てようとしたルクレール侯爵と、正統な後継者であるシオンを廃嫡し、家門を手中に収めようとしている父親。
形は違えど、二人のやろうとしていることは同じ。
「わたしはね、シオン。家を出るまでずっと、公爵家はあなたが継いでくれると信じて疑わなかった。だってあなたは正統な後継者だから。でも、必ずしもそれが幸せな結果になるわけじゃないって、今回の件で学んだわ」
「……姉さん」
「だから、あなたは好きにしたらいいのよ。もし戻りたければ、全力で応援する。きっと殿下が力を貸してくださるわ。でも、そうじゃないなら――」
エリスは、笑顔を消してしまったシオンに両手を伸ばし、そっと頬を包み込む。
「いつまでも、ずっと私の側にいていいのよ、シオン」



