「姉さん、今日も殿下の帰りは遅いの?」
「どうかしら。今朝もお見送りできなかったから」
「なら今夜も夕食を御馳走になろうかな。まだ全然話し足りないし」
「勿論、そのつもりで用意してあるわ。でも勉強の方は大丈夫なの? わたしはあなたと過ごせて嬉しいけど、今日でもう一週間よ」
「ああ、そっちの方は問題ないよ。こう見えて僕、結構要領いいんだから」
確かに、シオンはランデル王国学園で毎年次席を取っていたと聞いている。
ならば、きっと問題はないのだろう。
――それにしても。
勉強の件から、エリスは不意に思い出す。
自分はシオンに聞かねばならないことがあったのだ、と。
「ねぇ、シオン」
エリスがシオンの名を呼ぶと、シオンは夕日の眩しさに目を細めながら満面の笑みを零した。
「何、姉さん?」と、優しい声で問い返してくる弟の笑顔に、エリスは一瞬質問するのを躊躇ったが、意を決す。
「あなたは、スフィア王国に戻る気はないの?」
「――!」
刹那、予想外とばかりに、大きく見開くシオンの瞳。
「実はわたし、殿下から聞いているの。あなたが学園で次席を取っていたことや、奨学金で浮いたお金を投資していたってこと。それで、ずっと考えていたの。どうしてそんなことをしたんだろうって。そしたら、宮廷舞踏会でのあなたの言葉を思い出して……」



