この一週間、アレクシスはエリスを一歩もエメラルド宮の外に出していないため、エリスはまだ噂の内容を知らないが、あと一月もすれば社交シーズンがやってくる。
そうなれば、いくらアレクシスが気をつけようと、エリスの耳に入ることになるだろう。
それも、アレクシスの悩みの種だった。
けれどクロヴィスは、それをどうにかすると言っている。
「それは願ってもないことですが、一体どのように?」
「噂を消すには新たな噂を流すのが最も効果的だ。不貞など霞んでしまうほどの、不祥事をな」
「それは、どういう……」
すると、アレクシスが呟いたそのときだ。
執務室の外でバタバタと騒がしい足音がして、扉が荒めにノックされる。と同時に、クロヴィスが「噂をすればだな」と呟いたと思ったら、「至急申し伝えたいことが」と焦りに満ちた声がして、一人の若い男が駆け込んできた。
胸元に青いヒナギクのバッジをつけていることから、内政官であることがわかる。
彼はこの場にアレクシスがいることに気付き一瞬怯んだが、クロヴィスの「用件を言え」という声に即座に反応し、一枚の書類を突き出すと、まくし立てるようにこう言った。
「たった今この書状が届き、ルクレール侯爵が本日付で議長を辞任されると……!」



