――『兄上を許さない』
その言葉に、部屋の空気が張り詰める。
特にクロヴィスの側近たちの表情は険しく、今にもアレクシスを咎めんばかりの勢いだったが――けれど、それだけだった。
クロヴィスは側近たちを右手で制し、唇に弧を描く。
そして、窘めるようにこう言った。
「確かにそう思うのも無理はない。私がここ数年に渡り、ルクレール侯について調べていたのは事実だからな。それに私は、リアムが死んだ兄の代わりであることも、お前との間にトラブルがあったことも知っていた。――だが、だからといって今回の騒ぎそのものが私のせいだと決めつけるのは、あまりに短絡的ではないか?」
「……では、兄上は否定すると?」
「ああ、断じて違うと断言する。そもそも、侯爵の本来の跡取りが死んだことを知らぬ貴族などいやしない。ルクレール侯相手だからと口にしないだけで、我らの親世代は皆知っていることだ。更に付け加えるなら、私生児が後継者の代替として引き取られることも、召使い同然の扱いを受けることも何ら珍しいことではない。それは各家門の問題であって、私が口を出すべきことではない」
「……っ」
――家門の問題。口を出すべきことではない。
その乾いた声に、アレクシスは押し黙る。
全てはクロヴィスの言う通りだったからだ。
リアムが父親から不当な扱いを受けていようが、それを止める権利も義務も、クロヴィスには有りはしない。
つまりクロヴィスは、見過ごしただけだと言っているのだ。
リアムの置かれた状況や、アレクシスとの間に起きた確執について知りながら、何かが起こるかもしれないとわかっていながら、実際に事が起こるまで待っていた。
止めることこそしなかったが、積極的に何かを起こそうとしたわけでもない。
だから、自分に責任はない、と。



