【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



 ◇




「……下、……殿下……、――アレクシス殿下!」

「――っ」


 その声にハッと顔を上げると、セドリックが心配そうな顔でこちらを見ていた。

 どうやら意識を飛ばしてしまっていたようだ。
 右手に掴んだままの茶封筒が、手汗で少しばかり湿っている。


「それ、リアム様の調査書類ですよね。またあの日のことを思い出していたのですか?」
「――!」

 そう尋ねられ、アレクシスはギクリとした。図星だった。

 アレクシスは決闘以来、少しでも気を抜くと、決闘直後に駆け付けてきたエリスが血の気を失くして倒れた瞬間を思い出してしまうのだ。

「殿下、あれは間が悪かったのです。すぐに誤解は解けたのですから――」
「わかっている。……それでも、どうしても考えてしまうんだ。やはりエリスには話しておくべきだったのではと。そうすれば、あれ程の心労をかけることはなかったのに」
「それはそうかもしれませんが……。いつまでもそれを気にして、エリス様を避けていては本末転倒なのでは?」
「――ッ」

 セドリックの鋭い指摘に、アレクシスは押し黙る。


 ――アレクシスは、エリスに計画の全容を話さなかった。
 その理由は、決闘では何が起こるかわからないというのもあったし、何より、オリビアがどのような選択をするのかわからなかったからだ。

 だが、それが結果的にエリスの心に負担をかけてしまった。
 そのことに、アレクシスは強い自責の念を感じていた。

 だが最も問題なのはこの先で、アレクシスは先日の件を気にするあまり、この一週間、エリスを避けてしまう日々が続いているのだ。
 朝エリスを起こさずに、ひとりで朝食を済ませてしまっているのがいい例である。