◇◇◇
「……っ!」
――ハッ、と瞼を開いたエリスの視界に映ったのは、見慣れたベッドの天蓋だった。
ここはエメラルド宮のエリスの寝室である。
侍女が開けてくれたのだろう、カーテンの開かれた窓からは燦々と日が降り注ぎ、気持ちのいい朝の訪れを示している。
つまり、今のは、夢――と言いたいところだが、今のワンシーンは、正真正銘、現実に起こったことだ。
「……また、あの日の夢」
エリスは両手で顔を覆い、「はぁー」と大きく息を吐いた。
決闘が行われてからちょうど一週間。
アレクシスのあのときの台詞は、すべてが誤解だったと判明したにも関わらず、聞いた瞬間のショックが大きかったせいか、まだこうして夢に見てしまう。
――それにしても。
(殿下も、起こしてくださればいいのに)
隣には、昨夜共に眠りについたはずのアレクシスの姿は無く、時計の針が九時を回っていることからも、既に宮を出てしまっていると予想がついた。
というのも、決闘が終わった翌日から、疲れが出たのかエリスはなかなか朝起きられず、アレクシスはそんなエリスを気遣ってか、ひとりで朝食を済ませて出てしまう日が続いているのだ。
エリスが「見送りたいので起こしてほしい」と頼んでも、「無理はしなくていい」と、取り合ってもらえない。
侍女たちからも、「眠り悪阻という言葉もあるくらいですから、殿下の仰るとおりになさった方が」と言われてしまい、結局この一週間、エリスは一度もアレクシスを見送ることができないでいた。



