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「……っ!」

 ――ハッ、と瞼を開いたエリスの視界に映ったのは、見慣れたベッドの天蓋だった。


 ここはエメラルド宮のエリスの寝室である。

 侍女が開けてくれたのだろう、カーテンの開かれた窓からは燦々(さんさん)と日が降り注ぎ、気持ちのいい朝の訪れを示している。

 つまり、今のは、夢――と言いたいところだが、今のワンシーンは、正真正銘、現実に起こったことだ。


「……また、あの日の夢」

 エリスは両手で顔を覆い、「はぁー」と大きく息を吐いた。

 決闘が行われてからちょうど一週間。
 アレクシスのあのときの台詞は、すべてが誤解だったと判明したにも関わらず、聞いた瞬間のショックが大きかったせいか、まだこうして夢に見てしまう。


 ――それにしても。

(殿下も、起こしてくださればいいのに)

 隣には、昨夜共に眠りについたはずのアレクシスの姿は無く、時計の針が九時を回っていることからも、既に宮を出てしまっていると予想がついた。

 というのも、決闘が終わった翌日から、疲れが出たのかエリスはなかなか朝起きられず、アレクシスはそんなエリスを気遣ってか、ひとりで朝食を済ませて出てしまう日が続いているのだ。

 エリスが「見送りたいので起こしてほしい」と頼んでも、「無理はしなくていい」と、取り合ってもらえない。
 侍女たちからも、「眠り悪阻という言葉もあるくらいですから、殿下の仰るとおりになさった方が」と言われてしまい、結局この一週間、エリスは一度もアレクシスを見送ることができないでいた。