正直なところ、エリスはずっと気が気ではなかった。
 リアムの剣がアレクシスを掠める度、心臓が止まる思いだったのだ。

 けれど、エリスが気を緩めたのも束の間、クロヴィスの一言が、エリスを現実に引き戻す。

「さて、私は下に降りるとしよう。賭けの結果を見届けなければな」
「――!」

(賭け……。そうよ、まだ終わりじゃないんだわ)

 決闘に気を取られて忘れていたが、そもそもこの決闘は『敗者が勝者の望みを叶える』という賭けの元に行われている。

 つまり、これからアレクシスがリアムに何らかの望み、あるいは命令を下すということなのだ。

(殿下は、リアム様に何を望まれるのかしら……)

 クロヴィスは決闘が始まる前、「悪いようにはならない」というような趣旨のことを言っていたが、本当にそうだろうか。

 エリスは不安に思いつつも、覚悟を決めて、クロヴィスらと共に下へと向かう。

 だが、そんなエリスを待っていたのは、あまりにも衝撃的な光景だった。


 土砂降りとも言える雨の中、地面に両ひざをついたまま項垂れるリアムと、それに寄り添うオリビア。
 そんな二人を冷たく見下ろして、アレクシスは言ったのだ。

「リアム。お前には、ここで死んでもらう」と。

 そして、こう続けた。

「オリビア、お前はどうする? 兄と共に逝く(・・)か――今すぐ選べ」