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「オリビア様ッ!」
エリスがそう叫んだのと、アレクシスの剣が止められたのは、ほぼ同時だった。
アレクシスの放った刃は、オリビアに届く寸でのところで、ジークフリートによって防がれたのだ。
二階席のエリスたちは、その一部始終を上から見ていた。
今しがた、ジークフリートと共に闘技場に姿を現したオリビアが、止める間もなくアレクシスの前に飛び出していったところを。
そんなオリビアを追いながら、ジークフリートが剣を抜いた瞬間を。
正直エリスはその場面を見たとき、もう駄目だと思った。
ジークフリートは間に合わないのではないか。間に合ったとしても、アレクシスの剣を防ぎきれないのではないか、と。
けれど、ジークフリートは防いでくれた。
それを見届けたエリスは、ほっと胸をなでおろす。
「……良かった」
(オリビア様に怪我はないみたい。……でも、この状況って……)
正直、エリスは今の状況を、どう判断すればいいのかわからなかった。
激しい雨音に掻き消され、二階席には下の会話が聞こえてこないからだ。
眼下では、どういうわけかアレクシスとジークフリートが揉めだしており、そこにセドリックが仲裁に入っている様子だが、内容は少しも聞き取れない。
だが少しして、アレクシスに剣を向けられたリアムが、地面に項垂れたまま小さく首を振ったのを見て、クロヴィスが教えてくれる。
「ルクレール卿が負けを認めたようだ。これ以上は戦えないとな」
「では、殿下の勝利、ということですか?」
「ああ、そうなるだろう」
アレクシスの勝利――それを聞いたエリスは、心から安堵する。



