――『生け捕り』
まさか決闘を狩りに例えられるとは思っていなかったエリスは、シオンとクロヴィスの会話を内心恐ろしく思ったが、アレクシスが押されているわけではないということに、ひとまずは安堵する。
(例え方は気になるけれど、あれは殿下の作戦ということなのね)
ホッと息を吐きながら、再び闘技場のアレクシスを見下ろす。
だが、それも束の間――。
「……降ってきたか」と、不意にクロヴィスの声色が変わり、エリスが空を見上げると、灰色の分厚い雲から無数の雨粒が落ち始めていた。
(……雨?)
刹那、エリスの脳裏に、いつかのセドリックの忠告が過ぎる。
「エリス様、今日はあまり殿下に話しかけない方が良いかもしれません」
「……? どうしてですか?」
「酷い雨ですから。殿下は昔から雨がお嫌いなのです。雨の日はいつもの三割増しで不機嫌になりますから、お気をつけを」
そのときは、『そうか』と思うだけだったし、実際アレクシスは多少機嫌が悪いように見えても、それ以外は特におかしなところはなかった為に、今まで気にしてこなかった。
誰だって嫌いなものくらいある、と。
けれどこのタイミングで降りだした雨と、クロヴィスの空を見つめる眼差しに、エリスはどことなく嫌な予感を覚えた。
「あの、クロヴィス殿下」
「何だ?」
「アレクシス殿下は、雨がお嫌いなのですよね。……その、大丈夫なのでしょうか」
本当は信じたい。こんなことを尋ねるなんて、アレクシスを信じていないのと同義だ。
だが、誰かに『大丈夫』と言ってほしかった。
そんな気持ちで尋ねると、クロヴィスはエリスの気持ちを推し量るように目を細めた。
そうして、突き放すかのような声で告げる。
「大丈夫と言ってやりたいところだが、こればかりは本人次第。――私に言えるのは、それだけだ」



