【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



 するとクロヴィスは、「いい質問だ」と、関心した様子で説明してくれる。

「あれは我が国の(いにしえ)の戦士たちが、戦場で己を鼓舞するときに行っていた儀式のようなものだ。敵に囲まれ成す術がなくなったとき。あるいは、自身が犠牲にならざるを得ないとき。命の危機に対する恐怖心を律し、最後まで戦い抜くことを神に誓う。鞘を捨て、剣を利き手と縛りつけることで自ら退路を断ち、全てを天に委ねる――そういった意味がある。昨今は銃剣への移行が進み、剣を持つのは指揮官クラスのみとなった故に、すっかり見ない光景となったがな」
「……つまり、ルクレール卿はここで命を散らすおつもりだと? アレクシス殿下は、そのことに動揺なさった、ということでしょうか?」
「ルクレール卿の本心は分からない。が、少なくとも、アレクシスはそう理解しただろう。しかし、動揺しているかと言われれば、少し違うな」
「どういうことですか?」

 シオンが更に尋ねると、クロヴィスは二秒ほど思案して、こう問い返す。

「では逆に問うが――君がウサギを狩るとして、生きたまま(とら)えるのと、殺して(つか)まえるの、どちらでもいいとしたら、どちらを選ぶ?」
「……それは勿論、後者です」
「理由は?」
「当然、その方が容易(たやす)いからです。殺してしまえば、途中で逃げられるリスクがなくなりますから」
「そうだ。生け捕りというのは案外難しいものでな。それがウサギであればそうでもないが、もし獲物がシカやイノシシ……あるいはクマとなれば、捕まえるどころか、一瞬の油断が命取りとなる。まして相手は捨て身ときた。それも自分をよく知った相手となれば、警戒しないわけにはいかない。――つまりアレクシスは、絶好の機会を伺っているということだ。大きな獲物を、確実に生け捕りにするためにな」
「…………」