(正直まさかとは思ったが……セドリックの言う通りだったのか?)
実際のところ、リアムの本意は剣を打ち合わあせてみなければわからない。
けれど、少なくとも、こうして目の前に対峙しているリアムから、死に対する恐怖や動揺といった負の感情が一切感じられないのは事実。
それどころか、リアムは瞳に狂気を滲ませて、愉快そうに笑うのだ。
「あぁ、この右手か? 意味ならちゃんと理解している。君が想像している通りにね」
とアレクシスを挑発し、
「先ほどのエリス妃の声援も、よく聞こえていたよ。全く、どこまでも癇に障る方だ」
と、エリスを侮辱し、微笑むのである。
「…………」
だが、アレクシスは何も言い返さなかった。
自分やエリスを侮辱するような発言にも、わずかに眉を寄せるに留めた。
ここで何を言っても無駄だと判断したからだ。
現に、自分を見据えるリアムの瞳は、およそ自分の記憶の中のリアムとは似ても似つかないほど冷めきっているのだから。
怒りも、憎しみも、闘志すら感じさせない――そこにあるのは、真冬の湖に張った氷の様な冷たい殺気と、生への興味を微塵も感じさせない、狂気だけ。
そんな状態のリアムと、まともな会話が成立するとは思えなかった。
「…………」
「………………」
結局、アレクシスはそれ以上リアムに声をかけることなく、二人は無言で睨み合いを続けたまま、予定時刻の午前十一時を迎えた。
すると時間きっかりに、いつの間にか二階席に着席していたクロヴィスから、決闘開始の許可が下される。
それを合図に、審判役のセドリックによって「決闘開始」が宣言されると、アレクシスはその声と同時に、リアムとの間合いを詰めるべく、一気に踏み込んだ。



