(ようやくお出ましか)
だがそう思ったのも束の間、アレクシスは大きな違和感を覚え、眉をひそめる。
リアムが剣を抜いていたからだ。
それも、ただ抜いているだけではない。剣は布で右手としっかり固定され、更に、腰にあるはずの鞘は見当たらない。
そんなリアムの姿に、アレクシスは心がざわめき立つのを感じた。
「殿下、あれは……」
「……ああ、わかっている」
あれは戦場で敵陣に取り残され、後がないときの戦い方だ。
あるいは味方や民を逃がすため、死すら厭わず敵を迎え撃つときのやり方だ。
鞘を捨て、腕と剣を縛りつける。
一歩も後には引かないと。敵に背中を見せはしないと。
たとえ命尽きようと、決して剣を放しはしない。最後まで戦い抜くのだという、強い意思と覚悟の表れ。
と同時に、生きることへの執着を捨てた証でもある。
つまり、リアムはこう表現しているのだ。
『死んでも負けは認めない』『どちらかが戦闘不能になるまで、戦いを終わらせるつもりはない』――と。
「リアム……お前、その右手は……」
刹那――思わずそう言いかけたアレクシスの脳裏に、昨夜のセドリックの言葉が蘇る。
「リアム様が、死を覚悟して殿下に挑まれるのは確かでしょう。ですが、私はそれだけではないように思います。リアム様の目的は、『死を迎えることそのもの』ではないかと……そう思えてならないのです」
――と、今日の決闘の準備を終えたその別れ際、神妙な顔で告げたセドリックの声が。



