(――クソ。……こんなときに)
これから決闘だと言うのに、不謹慎なことを考えてしまう自分がいる。
今すぐエリスの元に駆け上がり、抱きしめてしまいたい衝動で一杯になる。
けれど、そんなことが許されるはずもない。
「……セドリック」
アレクシスは、エリスの姿を瞳の奥に捉えたまま、隣に立つセドリックを低い声で呼んだ。
「何でしょう」といつもと変わらぬ返事をするセドリックに、こう続ける。
「五分で終わらせる」
「……!」
それを聞いたセドリックは、流石に五分は短すぎると思ったのか。あるいは、アレクシスが冷静さを欠いていると思ったか、僅かに眉を震わせた。
が、アレクシスの横顔から、あくまでも冷静であることを悟ったらしく、やれやれと微笑む。
「確かに、早く終えるに越したことはありません。ですがどうか油断はなさらないように。急いては事を仕損じる、と昔から言いますから」
「わかっている。そういうお前こそ、準備は抜かりないんだろうな?」
「ええ、全ては殿下のご命令通りに」
――と、そんなやり取りを終えたところで、ようやく対戦相手が到着したようだ。
闘技場の入り口に控えていた部下たちの間に緊張が走るのを感じ、アレクシスが振り向くと、陸軍の軍服を装ったリアムが、こちらに歩いてくる姿が確認できた。



