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エリスとマリアンヌがそんな会話をしている一方で、アレクシスは闘技場の端に立ち、リアムの訪れを待っていた。
エリスのいる二階席から、直線距離三十メートルほど離れた地上部で、黒のグローブをしっかりとはめ直しながら、闘技場入り口付近を睨むように見つめていた。
(まだ来ないのか? 開始までもう五分とないぞ)
決闘の開始時刻は午前十一時。
もし時間になってもリアムが現れなけば、ルール上、アレクシスの不戦勝となってしまうが……。
(セドリックの話では、リアムは夜のうちに屋敷を出たということだったな。……まさか、この期に及んで逃げ出したのか?)
そんなことはあり得ないと思いながらも、時間ギリギリになっても姿を現さない対戦相手に、アレクシスの中で苛立ちが募り始める。
すると、そんなアレクシスの元にセドリックが駆け寄ってきた。
「殿下、リアム様の入場記録の確認が取れました。午前六時前に基地に入っていると」
「……そうか」
ということは、リアムが基地内にいるのは確実だということだ。
きっとどこかの訓練場で、決闘前の精神統一でもしているのだろう。
(あいつ、ギリギリまで俺に顔を見せないつもりだな)
話し合いを避けたいのか。はたまた別の理由か。
「人をやって探させますか?」
「いや、いい。時間までに現れなければ、こちらの勝利というだけだ。何も問題はない」
――そう。何一つ問題はない。
戦わずして勝利する。それは今回について言えば大いに不本意であるが、既にリアムへの罰の内容を決めているアレクシスにとって、勝ち方など問題ではなかった。
セドリックは、そんなアレクシスの考えを知っているからか。「それもそうですね」とあっさり返し、「ところで」と声色を変える。
「先ほどエリス様が到着されたようですよ。ほら、上に」
「……!」
「エリス様、ずっと殿下を見ておられますよ。ここはひとつ、手でも振って差し上げたらいかがですか?」
「なっ……、手だと……!? 何を馬鹿なことを……!」
「いいではありませんか。先日の話し合い以降、ほとんどお話できていないのでしょう? レディを安心させるのも、紳士の務めだと思いますけどね」
「…………」
刹那――セドリックの言葉が刺さったのか、アレクシスは顔を曇らせる。



