二人が案内された先は、闘技場の二階席だった。
今日は曇り空のせいで視界が悪いが、本来なら広い闘技場を隅々まで見渡せるであろうその席は、要人専用なのだろう。他の客席とは違い、しっかりとした屋根と壁で囲われている。
その空間には、今朝運び込まれたばかりと思われる、埃っぽい闘技場には不似合いな、座り心地のよさそうな椅子が四脚並び、そのうちの一つに、マリアンヌが腰かけていた。
「エリス様、ごきげんよう」
「……! マリアンヌ様……!」
マリアンヌが来るとは聞いていなかったエリスは、驚きに目を見張る。
「ふふっ、驚きました? クロヴィスお兄さまに頼んで、連れてきてもらったの。エリス様にお会いしたくて」
「わたくしに、ですか?」
「ええ。先日はきちんとお別れの挨拶もできなかったでしょう? それに、アレクお兄さまがエリス様を宮に閉じ込める指示を出したと聞いて、心配だったものだから」
「……マリアンヌ様」
(どうして、こんなにお優しいの……?)
図書館の一件で、マリアンヌには沢山の迷惑をかけてしまったというのに、それでも彼女はこうして自分を気にかけてくれる。
その有難さに、エリスは思わず涙を零してしまいそうになった。
けれどエリスは、その感傷を必死に堪える。
たとえ感動の涙であろうと、泣くのはまだ早すぎる、と。肝心の決闘は、これからなのだから。
「ありがとうございます、マリアンヌ様。わたくし、実は今日が来るのを恐ろしく思っておりましたの。そのせいで、今朝、殿下をきちんと見送ることもできなくて……。でも、マリアンヌ様のおかげで元気がでましたわ」



