◇


(あの後、殿下はいつものようにわたしの元を訪れてくれたけれど、何だか気まずくて……。結局、あれ以降『決闘』のことは何も話せないまま、今日を迎えてしまった)

 ――話そうと思えば、機会はいくらでもあったというのに。

(自分がこんなにも意気地なしだったなんて。……それに)

 
 それは今より二時間ほど前の、朝食が終わる頃のこと――エリスは突然、アレクシスからこのように伝えられた。


「今日の決闘だが、シオンに迎えを頼んでおいた。俺はセドリックと先に行くから、君はシオンと後で合流してほしい」と。

 エリスは驚いた。
 てっきり、アレクシスと一緒に行くと思っていたからだ。

「……え? 一緒に行かれるのではないのですか?」

 エリスが困惑気味に尋ねると、アレクシスは申し訳なさそうに眉を下げる。

「すまない。集中したいんだ」

「――!」

 この言葉に、エリスはショックを受けざるをえなかった。
『集中したい』――たったそれだけの言葉なのに、アレクシスに拒絶されたような気分になった。


 その後エリスは、結局まともな返事もできないまま、アレクシスの背中を見送ったのだ。