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(あの後、殿下はいつものようにわたしの元を訪れてくれたけれど、何だか気まずくて……。結局、あれ以降『決闘』のことは何も話せないまま、今日を迎えてしまった)
――話そうと思えば、機会はいくらでもあったというのに。
(自分がこんなにも意気地なしだったなんて。……それに)
それは今より二時間ほど前の、朝食が終わる頃のこと――エリスは突然、アレクシスからこのように伝えられた。
「今日の決闘だが、シオンに迎えを頼んでおいた。俺はセドリックと先に行くから、君はシオンと後で合流してほしい」と。
エリスは驚いた。
てっきり、アレクシスと一緒に行くと思っていたからだ。
「……え? 一緒に行かれるのではないのですか?」
エリスが困惑気味に尋ねると、アレクシスは申し訳なさそうに眉を下げる。
「すまない。集中したいんだ」
「――!」
この言葉に、エリスはショックを受けざるをえなかった。
『集中したい』――たったそれだけの言葉なのに、アレクシスに拒絶されたような気分になった。
その後エリスは、結局まともな返事もできないまま、アレクシスの背中を見送ったのだ。



