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 二日前、エリスはアレクシスに、『オリビアをリアムと引き離さないでほしい』とお願いした。
 決闘には反対しない。けれど、二人を共にいさせてあげてほしい、と。

 それは事実上、『リアムを許す』ということと同義だった。
 リアムに深手を負わせずに勝利し、尚且つリアムに重い罰を与えない、という意味に他ならなかった。


 ――アレクシスはそう解釈したのだろう。
 やや気分を害した様子で、エリスに尋ねる。

「君は、俺にリアムを許せと言うのか? あいつに罰を与えるなと?」
「そこまでは申しておりません。わたくしはただ、お二人が共に歩める方法があるのではと」
「それが許せと言う意味だろう」
「……っ」
「君には悪いが、俺は――」

 まるで畳み掛けるようなアレクシスの声に、エリスは思わず言葉を呑み込む。
 
「リアムを許すことはできない」
「――!」
「あいつには、それ相応の罰を与えなければ」
「…………」
「とはいえ、君の言うことも一理ある。命だけは取らないと約束しよう。だが、それ以上の返事はできない。理解してくれ」
「……っ」


(……命、だけ(・・)は……)

 それは事実上の拒絶だった。
 少なくとも、エリスにはそう聞こえた。
 
 命だけは見逃してやる――だが、それ以外は譲れない。
 と同時に、これ以上口を出すなと、壁を作られた気がした。

 

 その後のことは、よく覚えていない。

 アレクシスの言葉が思いの他ショックだったのか、それとも自身の不甲斐なさに打ちひしがれたのか。

 食事の終わり際に何か質問された記憶はあるのだが、何を聞かれたのか、自分がどう答えたのか、何も思い出せなかった。

 気付いたときには食事は終わっていて、アレクシスは席を立った後だった。