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エリスは語った。
自分のもとを訪れたオリビアが酷く憔悴しきっていたことや、温室で倒れてしまったこと。
倒れたオリビアをシオンが介抱し、自分に話してくれた内容を、覚えている限り全て。
ただ一つ、『オリビアがアレクシスを慕っていたのは嘘だった』ということを除いては――。
アレクシスはそんなエリスの話を、終始黙って聞いていた。
一言も口を挟まず、驚く素振りも見せず、ただ静かに聞いていた。
エリスはそんなアレクシスの様子を見て、この人は全てを知っていたのだと悟った。
シオンがオリビアの屋敷に滞在していることも。
多くの使用人がルクレール家の屋敷を辞めていったことも。
リアムの悲惨な生い立ちも。
なぜなら、アレクシスが唯一驚いたのは、一番初め。オリビアが宮を訪れたことを伝えたときだけだったからだ。
実際、昼間のことを一通り話し終えたエリスが、事実確認のため、「今の話に間違いはありませんか?」と尋ねると、アレクシスはこう言った。
「間違いない」と。
まるで何かを諦めたかのような顔で、そう答えたのだ。
エリスには、アレクシスのその表情の意味はわからなかった。
今アレクシスがどんな気持ちで自分の話を聞いているのか、このまま話を続けていいものか、何もわからなかった。
けれど、止められないということは、続きを話せということなのだろう。
エリスはそう判断し、言葉を続ける。
「では……これはご存じでしたか?」
これを言ってしまえば、今度こそアレクシスを怒らせるかもしれないと、ギリギリまで頭を悩ませながら、それでも、自身の心を必死に奮い立たせ、エリスは口を開く。
「オリビア様は、殿下を慕ってはいなかった……と」
「――何?」
「オリビア様が、シオンに泣いて話したそうなのです。全ては嘘だったと。彼女はただ、リアム様と一緒にいたかっただけなのだと。そのために、殿下を慕っている振りをしていたと。……自分のせいで、愛する兄を死なせてしまうかもしれないと……」
「…………」
エリスは、大きく顔をしかめたアレクシスを見据え、懇願する。
「突然こんなことを言われても信じられないのはわかります。難しいことも承知の上です。――それでも、お願いです、殿下。どうかお二人を引き離さないでいただけないでしょうか? このままでは、オリビア様があまりに不憫でなりません」



