だが同時に、彼女はとても心配になった。
エリスの弟を『小姓』にするというだけでも身内びいきが過ぎるのに、更に客人扱いの待遇となれば、口さがない貴族たちは、裏でどんな噂を立てるかわからない。
それが、どうしても気掛かりだった。
すると、そんなエリスの気持ちを悟った様に、アレクシスはほんのわずかに口角を上げた。
それはエリスが初めて見る、アレクシスの笑顔だった。
「……っ」
瞬間、エリスの心臓がドクンと跳ねる。
優しくて、温かくて、けれど同時に、とても寂しいアレクシスの微笑み。
エリスはその笑みに、息が詰まるような、喉元を締め付けられるような心地がした。
(殿下の笑顔……初めて見たわ)
月明りに煌めく黄金色の瞳に見つめられ、息をするのも忘れてしまいそうになる。
それでもエリスは、必死に言葉を絞り出した。
「本当に、殿下はそれでよろしいのですか?」――と。
するとそれに答えるように、笑みを深くするアレクシス。
「ああ、俺が決めた。二言はない。――とは言え、全てを自由にさせるつもりはないから安心しろ」
「……? それは、いったいどういう……」
「そうだな。具体的には、夜十時以降のこの棟への立ち入りは禁止、だとかな。――俺はもう、君と過ごす時間を誰にも邪魔させるつもりはない。それがたとえ、君の愛する弟であろうとも」



