◇
「……っ」
瞬間、エリスは肩を震わせた。
アレクシスに『話』の内容を言い当てられたことに。
何もかもを見透かしたような鋭い眼差しに、動揺を隠せなかった。
「その反応、やはりそうなんだな。となると口留めの内容は、大方シオンあたりが関係しているのか」
「……っ! 殿下……、それは……!」
「いい。君に情報を漏らしたのが誰であろうと責めるつもりはない。そもそも、君に秘密にしようとしたこと自体が間違いだったんだ。最初からきちんと話していれば、君にそんな顔をさせることもなかった。……俺が悪かった、すまない」
「…………」
(どうして、殿下が謝るの?)
すまなそうに自分を見つめるアレクシスの眼差しに、エリスは酷く混乱する。
(殿下は気分を害していたわけではなかったの? それに、シオンのことに気付いていながら咎めないなんて……)
――エリスは今この瞬間まで、アレクシスは機嫌を悪くしていると思っていた。
アレクシスは、使用人に口留めした自分に対し怒っているのだと。
あるいは、『大切な話』の内容がリアムに関わることだろうと勘づいて、苛立っているのではないかと。
でなければ、帰宅時にハグがなかったことや、パイになかなか口をつけなかったことに説明がつかない。そう考えていた。
だが、アレクシスは今、自分に謝罪した。
リアムの件に口を出されたくないが故に、自分を宮に閉じ込め、シオンを出禁にし、手紙のやり取りさえも禁止した口で、『もっと早くに話しておくべきだった』と、後悔を口にしたのだ。
エリスはそれが、にわかには信じられなかった。



