アレクシスはエリスの声に被せ気味に答えると、急いでナイフとフォークを動かし、一口サイズに切り分けたパイを口に運ぶ。
そうしてすぐに「美味い」と伝えたのだが、明らかに取ってつけたような反応だったせいか、エリスは傷ついたような顔をして、俯いてしまった。
そんなエリスの表情に、アレクシスは再び罪悪感に襲われる。
(ああ、俺はいったい何をやってるんだ……)
エリスの作ったパイが美味しくないはずがない。
実際、味はいつもと変わらず美味しいし、何より、エリスが自分の好物を作ってくれたということに喜びを感じている。
だがどうしても、素直に喜べない自分がいた。
まだエリスに決闘のことを伝えられていないこと。
それに、エリスが言った『大切な話』の内容――それが気になって、全てがぎこちなくなってしまう。
(俺は、エリスにこんな顔をさせるために内緒にしていたわけではないというのに)
そもそも、決闘について秘密にしていた一番の理由は、エリスに心労をかけたくなかったからだ。
他にも、エリスに恐れられたくなかっただとか、リアムに対して優しさを発揮してほしくなかっただとか、別の理由も含まれていたが、一番の理由は、エリスを守りたかったから。
だが、今の状況は……。
「…………」
(本当は、食事の途中で話そうと思っていたが……)
エリスにこんな顔をさせたまま、これ以上食事を続けることはできない。
アレクシスはそう判断し、ナイフとフォークを皿に置いて、唇を開く。
「エリス、もしや君の話というのは――」
「――!」
刹那、驚いた様に瞼を開き、顔を上げるエリス。
アレクシスはそんなエリスを真正面に捉え、どうか違っていてほしい、と心の奥底で祈りながら、
けれど、きっとそうに違いないと覚悟を決めて、問いかける。
「決闘のこと、なのか?」



