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一方、エリスは一足先に、食堂のテーブルに着席していた。
先ほどの素っ気ないアレクシスの態度の思い出しながら、銀食器に映り込む自身の姿を、射る様な瞳で見つめていた。
(覚悟はしていたけれど、さっきの殿下は明らかに気分を害した様子だった。やっぱり、二人きりになるまでは黙っておくべきだったかしら)
エリスは本来、食事が終わるまでは普段通りに過ごすつもりだった。
『大切な話がある』なとど、言うつもりはなかった。
それは、アレクシスと気まずい雰囲気で食事をしたくないという気持ちや、使用人が咎められないように、という気持ちがあったからだ。
けれど、アレクシスから「変わりなく過ごしたか」と尋ねられ、嘘をつくことができなかった。
(いつもは抱きしめてくださるのに、さっきはそれすらもなかった。きっと使用人に口留めをした、わたしの行動をお怒りになったのだわ。……でもシオンやオリビア様のことは、わたしが話さなきゃいけないことだし、仕方ないわよね)
――ああ、こんなに憂鬱な気分で食事を迎えるのはいつぶりだろうか。
そもそも、アレクシスはちゃんと来てくれるだろうか。
素っ気なく「着替えてくる」とだけ言い残し、こちらが何か言う隙も与えずに、あっという間に自分の元を去ってしまったアレクシス。
あのときの背中は、まるで自分を拒絶しているようだった。



