【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


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 一方、エリスは一足先に、食堂のテーブルに着席していた。

 先ほどの素っ気ないアレクシスの態度の思い出しながら、銀食器(カトラリー)に映り込む自身の姿を、射る様な瞳で見つめていた。


(覚悟はしていたけれど、さっきの殿下は明らかに気分を害した様子だった。やっぱり、二人きりになるまでは黙っておくべきだったかしら)


 エリスは本来、食事が終わるまでは普段通りに過ごすつもりだった。
『大切な話がある』なとど、言うつもりはなかった。

 それは、アレクシスと気まずい雰囲気で食事をしたくないという気持ちや、使用人が(とが)められないように、という気持ちがあったからだ。

 けれど、アレクシスから「変わりなく過ごしたか」と尋ねられ、嘘をつくことができなかった。


(いつもは抱きしめてくださるのに、さっきはそれすらもなかった。きっと使用人に口留めをした、わたしの行動をお怒りになったのだわ。……でもシオンやオリビア様のことは、わたしが話さなきゃいけないことだし、仕方ないわよね)


 ――ああ、こんなに憂鬱な気分で食事を迎えるのはいつぶりだろうか。

 そもそも、アレクシスはちゃんと来てくれるだろうか。

 素っ気なく「着替えてくる」とだけ言い残し、こちらが何か言う隙も与えずに、あっという間に自分の元を去ってしまったアレクシス。
 あのときの背中は、まるで自分を拒絶しているようだった。