【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



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 そして今。

 アレクシスは自室で軍服を脱ぎながら、先ほどの自身の行動を悔いていた。


(この俺としたことが、まさかエリスの前から逃げ出すとは。……戦場ですら、敵に背を向けたことはないというのに)


 ――エリスはどう思っただろうか。
 いつもなら帰るなりエリスを全力で抱きしめる自分が、何もせずに部屋に直行したのだから、きっと変に思ったはず。

 いや、変に思われるだけならまだマシか。

 もしエリスが本当にどこかしらから『決闘』の件を聞いたのだとしたら、不信感や不満を抱いていてもおかしくない。
 その上『逃げた』となれば、怒ったり、呆れられても文句は言えない。


 ――ああ、こんなことになるのなら、もっと早くに話しておくべきだった。


 アレクシスは自己嫌悪に陥って、けれど、内心大きく首を振る。

(いや、待て。まだ決まったわけじゃない。エリスは『話がある』と言っただけだ。それに話は食事の後。まだ、挽回は可能だ)

 エリスより先に、自分が話してしまえば――。


 アレクシスは、『今度こそエリスに話さなければ』と決意を固め、エリスの待つ食堂(ダイニング)へと向かった。