――わかっている。
エリスにとって、それは当たり前の行動であったことを。
建国祭のとき、川に落ちた子供を助けたのと同じように、エリスにとっては、何ら特別ではないことを。
だが、自分にとっては特別なことだった。
そして、これからは、自分だけが彼女の特別になりたいと思っている。
だから嫌なのだ。
もしエリスが決闘のことを知れば、リアムの出生の秘密を知れば、きっと彼女はリアムに同情し、自分が受けた被害のことなどすっかり忘れたような顔で、リアムを許してやってくれと言うのだろう。
それが、アレクシスはどうしても許せなかったのだ。
(本当に俺は子供だな。あの頃と、何一つ変わっていない)
あの日エリスを突き飛ばしたように、自分はオリビアを突き飛ばし、怪我を負わせた。
そんな自分が、こんなことを言える立場ではないというのに。
――そんなことを考えているうちに、馬車はエメラルド宮の正門をくぐり、次第にスピードを緩めていく。
そうして馬車が完全に停止したことを確認すると、アレクシスは肺から大きく息を吐く。
(考えるのは終わりだ。今は、目の前のことだけに集中しろ)
そう自身に言い聞かせ、どうにか平静を装って、エリスの元へと向かった。



