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「戻るのが遅くなり、申し訳ございません!」
「いいのよ。無事に戻ってきてくれて良かったわ。それで、何があったのか教えてくれる?」
「……はい。それが……」
今より一時間ほど前のこと。
シオンとオリビアの乗せた馬車が宮を出るとのほぼ入れ違いで戻ってきた侍女は、エリスに謝罪し、こう説明した。
学院に手紙を届けた際、シオンから「しばらくここで待っていてください。二時間経っても僕が戻らなければ、帰ってもらって構いません」と言われ、学院内の待合室で待ち続けていたこと。
だが結局シオンは約束の時間になっても戻らず、一人でエメラルド宮に帰ってきたところ、他の侍女たちから、シオンとオリビアが宮を訪れたと聞かされたことを。
「決闘のこと、聞いてしまわれましたよね。ですが、どうか殿下をお責めにならないでください。殿下は少し、不器用なだけなのです」
侍女は、アレクシスの命令を遂行できなかったことに顔色を悪くしながらも、言葉を続ける。
宮廷内で流れているエリスの噂を巡り、アレクシスがリアムと決闘することになったことを。
その事実をエリスの耳に入れないようにするために、アレクシスはエリスを外出禁止にし、シオンとの接触を禁じたことを。
「エリス様の母国ではどうかわかりませんが、帝国での決闘は、相手を殺してしまっても罪に問われないのです。例えそれが、王侯貴族であろうと……」
つまり、決闘では何が起こるかわからない。
だから、アレクシスはエリスに心労をかけないようにしたかったのだ――と。



