シオンはそう言いながら、どこに隠し持っていたのか、地味な茶髪のかつらを被り、帽子を深く被る仕草をする。
そんなシオンの服装は確かに、使用人が着るような少し型の古いスーツであり、エリスは思わず、感嘆の声を上げた。
「あなた、馬車も引けるのね」
今突っ込むべきところは絶対にそこではないが、消化不良気味のエリスには、そう返すので精一杯だった。
シオンはそんなエリスの返しにクスリと笑うと、温室の入口の方を見やり、「時間切れだね」と言って、オリビアを抱えたまま立ち上がる。
「時間切れ?」
「うん。――ほら」
そう言われて視線を追うと、そこには様子を見に来たであろう侍女たちの姿があった。
「エリス様……!」
「お戻りが遅いので様子を見に参りましたわ!」
「……!? これはいったいどのような状況で……」
「こちらの男性は……、――! シオン様ではありませんか! どうして……」
侍女たちはオリビアが意識を失っていることや、この場にシオンがいることに混乱を見せたが、シオンは全く気にする様子もなく、オリビアを抱えて侍女たちの横を通り過ぎていく。
「じゃあ、僕はオリビア様を連れて帰るね。罰ならちゃんと後で受けるから」と、潔く言い残し。
エリスは、そんなシオンの背中を無言で見送りかけて――けれど数秒の後ハッとして、シオンを呼び止める。
「シオン……!」
「?」
「あの……こんなこと、わたしが言うのは変かもしれないけど……」
エリスはまだ、シオンの話の半分も消化できていない。
だから正直、何と言ったらいいのかわからなかったが、それでも、今の気持ちくらいは伝えなければと、口を開く。
「ありがとう、シオン。会いにきてくれて。それに……オリビア様の側にいてくれて」
「――!」
「きっとオリビア様も、心強かったと思う」
するとシオンはその言葉が意外だったようで、大きく目を見開いたが、すぐに嬉しそうに眼を細めた。
「うん。僕も、姉さんが元気そうで安心したよ」
と柔らかく微笑んで、今度こそ温室を後にする。
エリスはそんなシオンの背中を、最後まで見送った。
温室に降り注ぐ陽光の下、自分はどうすべきなのだろうかと考えながら、シオンの姿が温室の外に消えるまで、見送り続けていた。



