「……お兄さまが、部屋から出てきてくださらないの。……こんなこと、初めてで。どうしたらいいのか、わからなくて……。二日後には決闘を控えているというのに……わたくしの話を、少しも聞いてくださらなくて……」

「……!」
(決闘……ですって?)


 刹那、エリスは自分の耳を疑った。
 突如突き付けられた『決闘』という二文字に、困惑を隠せなかった。

 だが本当に驚いたのは、その後――オリビアが続けざまに吐いた言葉を聞いた時だった。


「全部わたくしのせいなの。……わたくしが、わたくしがお兄さまに嘘をついたから……、殿下のことを慕っているだなんて、嘘をついてしまったから……!」

「……!?」
(――嘘? それって、どういうこと……?)

 混乱を極めるエリスの前で、オリビアは両目からぼろぼろと大粒の涙を流し、悲痛な声で泣き叫ぶ。


「お兄さまが変わってしまったのは、わたくしのせいなのよ……! 全部全部、わたくしが悪いの! ――ああッ、このままだとお兄さまが殺されてしまう……! わたくしのせいで、お兄さまが死んでしまう……」

「……っ」

「……お兄さまが、……お兄さま、……が……」


 ――すると、その瞬間だった。

 全てを言い終わる前に、オリビアの身体がぐらりと傾いたのは。


「――ッ! オリビア様……!?」


 極度の興奮とストレスからか。
 血の気の引いた顔でその場に崩れ落ちるオリビアに、エリスは咄嗟に手を伸ばした。

 どうにか彼女の身体を支えようと、急いで地面を蹴る。


 ――だが。


(間に合わないわ……!)


 そう思ったときだ。

 温室の奥の方向からサッと人影が現れて、気付いたときにはもう、オリビアの肩をしっかりと支えてくれていた。

「大丈夫ですか、オリビア様」と、オリビアに優しい眼差しを向けていた。


(……どうして)

 その人物を視界に映したエリスは、驚きのあまり目を見張る。

 そう。なぜなら、そこにいたのは――。


「……シオン? どうして、あなたがいるの……?」


 この場に絶対にいるはずのない、最愛の弟、シオンだったのだから。