エリスは侍女たちに、「一周したらすぐに戻ってくるわ」と、温室の入り口付近で待つように伝えると、オリビアと二人きりで、温室の奥へと足を進めた。
その間、オリビアはずっと黙り込んだままだった。
エリスはそんなオリビアを見て、彼女は侍女の前では、気丈に振舞っていただけなのだと理解した。
(まるで、別人みたい)
たった四度。
四度しか会ったことのない関係だ。
自分がいったい彼女の何を知っているというのだろう。
何も知りはしない。彼女の過去も、今も。何を信じ、誰を愛し、どう生きるのか。
何一つ知りはしない。
それでも、知っていることもある。
困っている人がいたら、迷わず手を差し伸べられるような優しさと正義感を持っていること。
花や植物が好きなこと。医者顔負けなほどの知識を身に着けていること。
そして、リアムを心から愛し、慕っていること。
言葉など交わさなくたってわかる。
自分が弟を愛しているように、彼女も兄を愛していると。
視線の先の彼女の瞳が、今にも崩れそうな横顔が、そう叫んでいるのだから。
「……オリビア様」
きっと自分は、彼女の力にはなれないだろう。
アレクシスの意に反することをしようとは、どうしても考えられないから。
けれど、それでも知りたいと思うのだ。
たとえ役に立てなくても、彼女の心を知りたいと。
それが、ただのエゴだとわかっていても。
「どうか聞かせてください。オリビア様の願いとは……。リアム様に、何かあったのですか?」
エリスが尋ねると、オリビアはハッとしたように顔を上げた。
そうして、泣き出しそうな声で呟くのだ。
「お兄さまが」――と。



