【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



(もしかして、あまり眠れていないのかもしれないわ。気丈な方だと思っていたけれど……それほどリアム様の一件が堪えているということなの? 声のトーンも、先週に比べて、明らかにお元気がない)

 それはつまり、それだけあの一件の予後が悪いということなのではないか。

 アレクシスは何も話してくれないが、少なくとも、オリビアがこれだけやつれるだけの理由があるのではないか。

 そう思うと、いよいよ事の成り行きが心配になってくる。

 オリビアのことも、シオンのことも、何一つ把握しないまま、この五日間を過ごしていた自分が心底恥ずかしくなった。


(わたし、本当に何も知らないんだわ。そんなわたしが、オリビア様にどう声をかけてさしあげたらいいの?)


 そもそも、エリスとオリビアが言葉を交わすのは、今日でようやく四回目。

 一度目は図書館で助けられたとき。二度目はお茶会で、三度目は帝国ホテルで。

 その三回のうち、交流目的だったのはお茶会だけだ。
 だがそのときだって、オリビアと親しくなったのはエリスではなく、どちらかと言えばシオンの方だった。

 オリビアの笑顔を引き出したのもシオンだし、アボカドを一緒に収穫したのもシオン。

 つまり、エリスはオリビアのことをほとんど知らないといってよく、立場的に見ても、友人と呼べる間柄ではないことは間違いない。

 ましてエリスは、オリビアからしたら、かつての想い人アレクシスの妻であり、恋敵。
 一緒にいて楽しい相手ではないだろう。

 そんな自分に、オリビアは会いにきてくれたのだ。
 否――どうしても会わなければならない理由があったのだ。

 体調不良を押してまで――。


(ああ、それは……いったい誰の為に……?)


 エリスは自問し、自答する。


 ――そんなの、リアムの為に決まっているではないか、と。