「答えろ! なぜあんな卑怯な手を使った!」
アレクシスは怒りのあまり、クロヴィスの胸倉に掴みかかる。
周囲の観客が蒼い顔で立ち竦む中、大声で怒鳴り散らす。
「兄上には恥じというものがないのか! あんな手を使って掴んだ勝利に、いったい何の意味がある!」
――アレクシスは、手合わせを心底楽しんでいた。
当然勝利は求めていたけれど、クロヴィスと剣を交えた瞬間、本来の目的を忘れてしまうほどの高揚感に満たされた。
本気のクロヴィスと戦えることに、強い喜びと興奮を感じていた。
だからこそ許せなかった。
負けたことにではなく、クロヴィスが卑怯な手を使ったことに。
――だがクロヴィスは少しも取り合わず、アレクシスの手を払いのける。
「卑怯? まさかお前は、戦場でもそんな甘いことを言っているのではあるまいな?」
「……! 突然何を……、そんなはずないだろう!」
「そうか? ではお前は私を何だと思った。敵ではないのなら、味方か? 血の繋がりのある兄ならば、正々堂々勝負するはずだと信じたか? ならば認識を改めることだ。私はお前の敵ではないが、味方でもない。そう易々とお前の踏み台になってやるつもりはないよ」
「――ッ」
クロヴィスの言葉に、アレクシスは拳を強く握りしめる。
なぜなら、それが図星だったからだ。
確かにアレクシスは、クロヴィスを敵とは認識していなかった。どちらかと言えば、味方だと思っていた。
幼い自分に剣を教え、その後に起きたスタルク王国との開戦時も、自分とセドリックを守るため、ランデル王国に身を寄せられるように手配してくれたのはクロヴィスだ。
正直、クロヴィスの性格は気に入らないし、不満を上げれば切りがないけれど。
それでも、アレクシスは心の奥ではクロヴィスを尊敬し、信頼していた。
だから考えもしなかったのだ。
卑怯な手を使ってでも、クロヴィスが勝利に手を伸ばす可能性を。



