憧れ、羨望、嫉妬。
かつて幼いアレクシスが偉大な兄に抱いたそれらの感情は、クロヴィスがたった十五で初陣を飾り、見事勝利を収めた頃からますます大きくなり、気付いたときには畏怖へと変わっていた。
学生でありながら戦場に身を置き、華々しい戦功を上げていく、三つ上の腹違いの兄、クロヴィス。
アレクシスは遠くない未来、戦場で兄と肩を並べる日を想像し、同時に、いつか必ず兄を打ち負かしてやると闘志を燃やした。
それなのに、クロヴィスは十八歳の誕生日を迎えたその日、あっさりと軍を退いた。
しかもアレクシスがそれを知らされたのは、それから三年後、留学先のランデル王国から戻った後のこと。
第四皇子からクロヴィスの退役を知らされたときの失望感は、今でも昨日のことのように覚えている。
それ以来、アレクシスは何年にも渡り、クロヴィスを避け続けてきた。
どうして軍を辞めたのか――と尋ねる気にもならなかった。
聞いたところで答えないのはわかっていたし、答えを得たところで、クロヴィスが軍に戻ってくるわけでもなかったからだ。
これはそんなクロヴィスと戦える、またとない機会。
その対決に純粋な気持ちで臨めないことには後ろめたさを感じたが、それでも、今のアレクシスにはクロヴィスとの手合わせ以上に大切なものがある。
(正直、卑怯だという自覚はある。だが、俺が兄上に勝てるとしたら、これしかない)
アレクシスは、一歩も引かずにクロヴィスを睨みつける。
すると、クロヴィスは「ふっ」と小さく声を上げ、さも愉快そうに顔を歪めた。
「余程自信があるようだ。いいだろう。だが、わかっているな? 勝負となれば手加減はしない。お前が負ければ、私の望みを聞くのはお前の方だぞ」
「勿論、承知の上です」
「そうか。ならば受けて立とうじゃないか。少しは私を楽しませてくれることを期待しているよ、アレクシス?」



