(兄上はエリスを俺の抑止力にし、俺にリアムを殺させないつもりなのだろう。その考えは理解できなくもない。……だが)
リアムの実力がアレクシスに遠く及ばないとはいえ、実際問題、リアムに傷一つ付けないで勝利するのは無理がある。
それに何より、アレクシスには自信がなかった。
もしまたリアムがエリスを侮辱するようなことがあれば、自分を止められる自信がない。
今度こそ我を忘れ、何の躊躇いもなくリアムを斬り殺してしまうかもしれない。
もしエリスがそんな場面を見たら、きっとエリスは自分を恐れ、今のように接してはくれなくなるだろう。
アレクシスは、そんな漠然とした不安を抱えていた。
だが、そんな情けないことを、どうしてセドリックに言えようか。
言えるはずがない。
エリスに嫌われるのが怖い、などと、女々しいことを。
(……全く、いかんな、俺は。いい加減、覚悟を決めなければ)
「わかった。今夜話す。だからそう怖い顔をするな」
「本当に話せるんですか? この五日間、あれだけ長い時間一緒にいて話せなかったんですよ? やはり、ここは私が話した方がいいのではないでしょうか?」
「何だ。俺に話せと言っておきながら、お前は俺を疑うのか」
「はい。正直疑っております。明日の朝がきたら、『話せなかった』と落ち込む殿下の未来が想像できすぎて……」
「……お前なぁ」
真顔のまま冗談らしき発言をするセドリックに、アレクシスはヒクッと口角を吊り上げる。
――が、実際のところ、セドリックの予想は当たらずとも遠からず――といったところか。
話さなければならないから「話す」と言っただけで、本当に話す決意は、まるでできていないのだから。



