「殿下のお気持ちは理解しているつもりです。エリス様を悩ませたくない、血を見せたくない。殿下は私にそう仰った。ですが殿下の実力ならば、血を流さずともリアム様を制圧できるはず。エリス様にもその様にお伝えすれば、何も問題はないでしょう?」
「……それは、確かにその通りだが」
「では、いったい何に悩んでおられるのですか。ご自分でお話できないと言うのなら、私が代わりにエリス様にお伝えしても構いません」
「いや、それは……」
「もしも他に不安要素があるのなら、教えてくだされば対処いたしますし」
「…………」
アレクシスはもともと、エリスに決闘のことを知らせるつもりすらなかった。
それはエリスをこれ以上巻き込みたくなかったからであり、また、二度とリアムに会わせたくなかったからでもある。
何より、真剣を使う決闘は、何が起こるかわからない。
相手を殺してしまっても罪に問われないが故に、決闘中に命を落とす者が後を絶たず、近年は、決闘廃止の議論がされているほどなのだ。
つまり決闘とは、文字通り生死を賭けた戦いなのである。
――そんな決闘を、リアムは申し込んできた。
「決闘ならば、私の首を刎ねられるだろう?」と、自身の命を堂々と差し出して――。
(リアムは死ぬ気で俺に挑んでくるつもりだろう。ならば、こちらも本気を出すのが筋というもの)
そういうわけだから、アレクシスはリアムの息の根を止めるつもりで決闘に臨むと決めていた。
少なくとも、手足の一本くらいは削いでも仕方がないと考えていた。
その傷が原因で、リアムが命を落とすことになろうとも。
だがクロヴィスは、そんな戦いにエリスを連れてこいと言ったのだ。
それはアレクシスにとって、本気を出してはならない、ということと同義だった。



