(あと二日。……あと二日で、全てを終わらせる)
リアムとの決闘に勝利し、公の場で罪を認めさせ、エリスの身の潔白を証明する。
それで、全てが終わるはず。
(エリス、待っていろ。君についてのくだらない噂は、俺がすぐに消してやる)
と、そう思ったときだ。
執務室を目前にして、不意に、後方を歩いていたセドリックの足が止まる。
どうしたのだろうかと振り向くと、セドリックがいつになく神妙な顔をしていた。
「……? どうした、セドリック」
「殿下。ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「ああ。何だ」
どうにもセドリックらしくない言い方だ。
いつものこいつなら、言いたいことがあれば確認などせず言うだろうに。
アレクシスはそんなことを思いながら尋ね返す。
するとセドリックは目を細め――「決闘の件」と低い声で口にした。
「いつエリス様にお話されるつもりなのですか。決闘はもう明後日なのですよ。まさかクロヴィス殿下から提示された条件を、お忘れではないでしょうね?」
「……!」
その問いかけに、アレクシスはピクリと眉を震わせる。
――五日前、アレクシスはクロヴィスに決闘の立会人になってくれないかと頼みにいった。
すると、クロヴィスは全てを理解したような顔をして、このように答えた。
「なるほど、件の件は彼の仕業だったか。――いいだろう。他ならぬお前の頼みだ、立会人を引き受けよう。ただし、条件がある」と。
「条件……?」
訝し気に尋ねるアレクシスに、クロヴィスは薄く微笑む。
「決闘には、必ずエリス妃を同行させること」
「――! なぜ……!」
「なぜも何も、彼女はこの件の当事者だ。彼女には全てを見届ける権利がある。――お前のことだ。まだ話もしていないのだろう? 日付は空けておくから、エリス妃にきちんと話をしてから、もう一度来なさい。いいね?」
「……っ」
(見届ける権利だと!? エリスは被害者だぞ……!)
アレクシスは憤ったが、立会人がいなければ、決闘の正当性を証明できなくなってしまう。
それだけは避けなければならなかったアレクシスは、仕方なく頷いたのだ。
「わかりました。また来ます」と。
だが結局、アレクシスは五日が経った今も、エリスに話せないでいた。



