【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 そんなアレクシスの行動を、エリスは最初、自分を案ずる気持ちからくるものだと考えていた。
 あるいは、独占欲のようなものだろう、とも。

 けれど昨夜のことで、どうもそれだけではないのでは、という気になってくる。

 アレクシスが自分を大切に思ってくれているのは間違いない。
 だが、それ以外にも何か理由がある――そんな違和感が。


(……そう。例えば、わたしの気を、何かから逸らそうとしているみたいな)


 事実、アレクシスはこの五日間、一度たりともリアムの名を口に出さなかった。

 つまり、アレクシスはエリスに対し、『リアムの件にはこれ以上口を出すな』と牽制しているわけで。

 それ自体は、アレクシスの心情を考えれば不自然でもなんでもないが、しかし――。


(やっぱり、どうしても気になるわ。あの後、オリビア様がどうされたのかも気になるし……とにかく一度、シオンと話をしてみないと)


 宮の出入りは禁止されてしまったシオンだが、手紙のやり取りについては駄目だとは言われていない。
 送った手紙の返事はまだだが、もう一度送ってみよう。
 
 そう考えたエリスは、短い手紙をしたためると、侍女を呼びつける。


「お呼びでしょうか、エリス様」
「この手紙をシオンに届けてほしいの。直接渡して、その場で返事を書いてもらってくれる?」
「……直接、ですか?」
「ええ、直接よ」
「……わかりました。すぐに行って参ります」
「お願いね」


 ――侍女の返事に間があった様な気がしたが、気のせいだろうか。


「…………」

(まさか……そんなことはないわよね)


 エリスの心に湧き上がる、一抹の不安。

 それを振り払うように、エリスは小さく(かぶり)を振って、窓の外に広がるいつもと変わらぬ庭園を、ひとり静かに見下ろすのだった。