【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 だが、一つだけ気になることがあった。

 それは、アレクシスがシオンの宮の出入りを禁止にしてしまったことである。


 それまで毎日宮にやってきていたシオンが、ホテルで別れてからというもの、一向に姿を現さない。
 手紙を出してみても、返事一つ寄越さない。

 そのことに疑問を持ったエリスがようやく昨夜、

「シオンについて、セドリック様から何か聞いておりませんか? ホテルで別れてから、音沙汰がないのです。手紙を出しても返事がなくて」

 と尋ねたところ、アレクシスは、

「シオンには、しばらくの間宮の出入りを禁じると伝えてある。君を無断外泊させた責任を取らせてな。手紙の返事がないのは、反省しているからなんじゃないのか?」と答えたのだ。

 ――その返答に、エリスは疑問を抱かざるを得なかった。
 

(どうして殿下は、シオンを出入り禁止にしたことをすぐに教えてくださらなかったのかしら。それに、返事がないのは『シオンが反省しているから』だと仰っていたけれど……でも……)


 果たして、あのシオンがそんな理由で手紙の返事を送ってこないものだろうか。

 ホテルで別れる前夜、エリスはシオンと一晩中共に過ごしたが、そのときのシオンの様子を考えると、とてもそうとは思えない。

 それに。


(ここ五日の殿下の愛情表現は……何だか、少し……)


 この五日間、アレクシスは日が暮れる前には必ず帰宮し、エリスと過ごす時間をたっぷりと取ってくれていた。

 エリスが宮の外に出るのを禁じている、その代わりのつもりだろうか。

 夕焼けに染まる庭園を散歩したり、読書するエリスの横に並んで座り、普段は決して読まない本を読んでみたり。
 アレクシスの好物を用意するエリスの様子を見るために、厨房に足を運んでみたり。

 当然、寝室も一緒。
 妊娠しているエリスの身体を気遣ってか、最後まですることはないのだが、スキンシップは以前にも増して増えている。