エリスは意を決し、アレクシスに問いかける。
「殿下。いくつか、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「……何だ」
「殿下は既に、わたくしの噂を聞いていらっしゃるのですよね。では、昨日の図書館でのリアム様とのことは……。それに、どうやって殿下は、わたくしがホテルにいることをお知りになったのですか?」
シオンが宮に送ったという手紙には、図書館で起きたことまでは書かれていなかったはず。
だから、昨日の今日で、アレクシスがその詳細まで知っているとは考えにくかった。
それにそもそも、アレクシスはどうやって自分が帝国ホテルにいることを知ったのだろう。
ホテルでのアレクシスの様子からして、ジークフリートがシオンとは別に知らせを送っていた――という風にも見えなかった。
そう思っての質問だったが、アレクシスから返ってきたのは「そんなことが重要か?」という冷たい声で。
エリスはショックのあまり、息をするのも忘れかけた。
が、アレクシスはすぐに失言に気付いた様子で、「悪い」とすまなそうに息を吐く。
「君があいつの名を出すから、頭に血が上った」
と、エリスの身体を抱きしめる。
――その苦し気な声に、自分を抱きしめる腕の力に、エリスは全てを悟った。
アレクシスは、少なからず噂を信じているのだと。
自分がリアムに手を出された事実があると、そう思っているのだろうと。
だからこその謝罪だったのだ。
(……でも、そうよね。あの噂を聞いたら、誰だってそう思うわ)
気持ちがどうであれ、自分とリアムとの間に、何らかの身体の関係があったと思うのは普通。
つまりアレクシスは、自分がリアムに汚されたと思っている。あるいは、それに近いことをされたと思っている。
だが、そんな事実はどこにもない。
まずは、それを伝えなければ――。
「……殿下」
「…………何だ」
エリスは、自分の肩に顔を埋めるアレクシスの胸板をそっと押し返し、アレクシスの顔を覗き込んだ。
そうして、アレクシスの瞳を真っすぐに見据え、唇を開く。
「わたくし、あの方とは何もしておりませんし、何もされておりません。わたくしのこの身体を知るのは、神に誓って、殿下ただおひとりでございます」



