【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「ところで姉さん。馬車の用意ができたって、ジークフリート殿下が」

「――!」

 その言葉に、エリスは再びハッとする。

 そうだ。自分は一刻も早く、エメラルド宮に戻らなければならないのだった――と、気持ちを切り変える。

「わかったわ。急いで宮に戻りましょう」


 だが、エリスが部屋の扉を開けた――そのときだった。


 廊下の先にある、リビングの更に向こう側、スイートルームの玄関の方が、何やら騒がしいことに気付く。

「……?」

(何か、あったのかしら?)

 ――が、そう思うと同時に、エリスは新たに気付いてしまった。

 騒いでいるうちの一人が、他でもない、アレクシスであることに。

「エリス! どこだ……!」と、自分の名を叫んでいることに――。


「――っ」


 刹那――エリスは床を蹴っていた。

 昨夜、ジークフリートから不義の噂を聞かされたときはあれほど不安に思ったのに、そんな気持ちはどこかへと吹っ飛んでしまっている自分がいた。


 ――ああ、どうして彼がここにいるのだろう。
 いつ帰ってきたのだろう。

 噂はもう聞いただろうか。
 お腹の子どものことは知っているのだろうか。

 どうやってこの場所を……。

 ああ、もしや彼は、一晩中自分のことを探してくれていたとでもいうのか。

 だからあんなに、焦った声で自分を呼んでいるのだろうか――。


「アレクシス殿下……!」


 エリスはアレクシスを呼びながら、リビングへと駆け込んだ。

 すると、ジークフリートの胸倉を掴むアレクシスと目が合って――次の、瞬間。


「エリスッ!」


 気付けばエリスは、アレクシスの(たくま)しい腕に、しっかりと(いだ)かれていた。