確かにエリスは、リアム本人から聞かされて知っていた。
オリビアの火傷の責任が少なからずアレクシスにあることや、その火傷の痕のせいでオリビアが遠方に嫁がねばならなくなったことを。
そのせいでリアムは深く思い悩み、オリビアをアレクシスの側妃にしてほしいと願い出てきたことを。
――その苦しみが恨みに変わったとしても、何ら不思議ではない。
(どうして気付かなかったのかしら。少し考えれば、わかりそうなものなのに)
お茶会でリアムは言っていた。
「オリビアは、殿下を慕っていたのです」と。
それを聞いたとき、自分はすぐに気付かねばならなかったのだ。
アレクシスの妻の座に収まった自分のことを、リアムがよく思うはずがない、と。
(……わたしの、せいだわ)
エリスの心に、罪悪感が湧き上がる。
もっと早くリアムの真意に気付けていれば、こうはならなかったのではないか、と。
あの日、体調不良を押して図書館になど出かけなければ。
お茶会になんて参加していなければ。
リアムの頼みを断るとき、もっと言葉を尽くしていれば――たとえリアムがアレクシスを恨んでいようとも、ここまでのことはしなかったかもしれない。
エリスはベッドの上で、ぎゅっと拳を握りしめる。
「申し訳ございませんでした。わたくしの不手際で、ジークフリート殿下を巻き込む形になってしまい……どう、お詫びをしたらよいのか」
他国の王太子までをも巻き込んでしまったのは、明らかな失態だ。
ここまで大事になってしまっては、アレクシスに合わせる顔がない。
――それに。
噂を聞いたアレクシスはどう思うだろうか。
アレクシスは、自分を信じてくれるだろうか。
噂は全て嘘偽りだと。根も葉もないことであると。
お腹の子供は、正真正銘アレクシスの子であると。
(もし、殿下に疑われでもしたら……)



