今のアレクシスを落ち着かせる方法は、これ以外にない。

 セドリックは、冷静さを取り戻すべく息を吐き、剣を鞘に収めた後、アレクシスの前に一枚の絵ハガキを差し出した。


「エリス様の居場所がわかったというのに――こんなところで油を売っていていいんですか?」

「――何?」

 その言葉に、アレクシスはピクリと眉を震わせる。

「シオンの机の引き出しに、この絵ハガキが入っていました。殿下なら、見覚えがあるのでは?」
「――!」

 瞬間、アレクシスはハッと我に返った。

 確かにアレクシスには、その絵ハガキに見覚えがあった。
 これは、ジークフリートが親姉弟宛にと選んでいたものだ。


「あいつ、シオンにもこれを送っていたのか……?」

 アレクシスはすっかり混乱した様子で、セドリックからハガキを奪い取る。
 するとそこには、帝国ホテルの部屋番号と、ジークフリートの愛称が書かれていた。

「……つまり、エリスはこの部屋にいると?」
「ええ、おそらくは」
「あいつ……国に帰ると言っていたのに……どういうつもりで……」
 
 ジークフリートは十日ほど前、演習最終日を待たずにロレーヌを出立していた。

 そのときジークフリートは確かに、「国に帰る」と言っていたのに、どうして帝都にいるのだろうか。
 アレクシスは疑問に思ったが、エリスの居場所がわかったという今、こうしてはいられない。

 アレクシスは剣を収めると、あっさりとリアムに背を向ける。

「セドリック。今すぐ帝国ホテルに向かう」
「承知しました」
「リアム、お前への処分は追って下す。覚悟しておけ」

 それだけを言い残し、部屋を後にしようとした。


 だが、リアムはそれを許さなかった。

 セドリックが駆けつけてからというもの、様子を伺うように反応を殺していたリアムが、不意に動きを見せたのだ。


「待て――!」


 そう叫ぶと同時に、リアムは憎しみに満ちた顔で、テーブルの上の手袋をアレクシスに投げつける。
 次の瞬間、振り返ったアレクシスの肩に当たり、絨毯の上へと落ちた――その手袋の意味は……。


「拾え、アレクシス。君に決闘を申し込む。――これならば堂々と、私の首を刎ねられるだろう?」


 ――生死を賭けた、決闘の申し込みだった。