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(どうにかして、殿下の気を鎮めなければ……)


 今現在、セドリックの前には、剣を構え直すアレクシスの姿があった。
 リアムを庇ったセドリックに対し、アレクシスは怒りを抑えきれないようだった。


「そこを退け、セドリック。殺されたいのか?」

 ――と、全身から強烈な殺気を放ち、セドリックを睨みつける。

 だが、セドリックは引かなかった。

 この国では私刑は固く禁じられている。
 それは皇族も例外ではなく、破れば厳しい罰を受けなければならない。

 つまり、どうあっても、アレクシスにリアムを殺させるわけにはいかないのだ。


 けれども、アレクシスに忠誠を誓うセドリックには、それ以上どうすることもできなかった。

 アレクシスの剣を受け流すことはできても、剣を向けることは許されない。
 当然、アレクシスの身体に傷をつけるなどもっての外だ。

 とはいえ、このまま睨み合っていても、アレクシスが怒りを鎮めることはないだろう。

 そう判断したセドリックは、あることを決意する。


(本当は、こんなところで出したくはなかったが……)